
導 入
国際反奴隷制協会(訳注:1839年、英国で設立)は、現代の奴隷制とは「一個人が個人的、政治的、社会的、営利的な利益のために、他者によって搾取されることである。だまされることであれ、強要されることであれ、押しつけられることであれ、その個人は自分の自由を失う。これは人身売買、強制労働、借金による束縛を含むが、それに限らない」と定義しています。現代の奴隷制は多くの形をとっていますが、全てが支配、不本意な行為、搾取を含んでいます。それは地球規模の現象で、女性、子ども、移住者、難民を含む、世界中の奴隷状態に追いやられている5千万人近くに影響を与えています。気候変動の危機と、新しい形の奴隷制は様々な形で関係し合っています。
祈りへの招き
神よ、あらゆる形の現代の奴隷制に立ち向かうため献身している全ての人々を支えてください。不正義や暴力に公然と立ち向かい、人間の尊厳を守る活動している組織を強めてください。物質的、道徳的、霊的な貧困の中で生活している人々に奉仕している宣教者を祝福してください。
体 験
パサマラという青年は、人生の途上で恐ろしく残酷な行為、拷問、抑圧、拒絶を体験してきました。生まれた時に父親が家族を捨てました。母親は、絶望と怒りで、生まれたばかりの赤ん坊を警察に遺棄しました。このために、母親は刑務所に収監されました。祖母が子どもを育てましたが、14歳の時に誘拐され、反乱軍の兵士にさせられました。はじめは斧やなたで、のちにはライフル銃を使って、戦い方や殺し方を教えられました。
パサマラは祖母と過ごした村の日々を大変懐かしく思い、逃げることに決めました。残念ながら、最初の逃亡は失敗しました。捕らえられ、基地に連れ戻され、死刑を宣告されたのです。最高司令官のいとこは自分自身も誘拐され反乱軍の部隊に入れられたのですが、そのいとこの嘆願によってパサマラは死刑を免れました。しかし、厳しく罰することが命じられたのです。
彼は鞭打ち刑の間完全に意識を失いました。意識を取り戻した時は血みどろで地面に倒れ、激しい痛みに苦しみ、傷ついた体をえじきにするハエや様々な虫に取りつかれていました。助けに来たり、水を持ってきたり、体を洗ってくれる人は誰もいませんでした。2週間たってやっと動けるようになると、またもや罪のない人々を攻撃し、殺し、略奪したりする命令に従わなければなりませんでした。彼はそれから2年半の間、このような非道な束縛の中で過ごしました。
パサマラはもう一度逃げようと決めました。自由になりたいという強い願いがあったので、恐れを乗り越え長距離を旅し、無数の困難に直面する力を身に付けていたのです。彼は神に守りと助けを祈りました。今回は成功しました。
家に近づくと、村の中で反乱軍が人々を殺しているのがわかりました。教会の中に隠れ、祭壇の下で寝ました。反乱軍が村を去った時、とうとう家に着きました。祖母がまだ生きていてどんなにうれしかったことでしょう!いのちを救ってくれた神への感謝の気持ちで、祈りのグループや聖歌隊に参加し、教会で活躍し、学校での学びを続けました。彼は南スーダンのヤンビオにある「教員養成校」私の生徒でした。私は、束縛の鎖を断ち切りたいという彼の意志の強さと信仰に心を打たれました。パサマラは卒業したばかりですが、教育によって、自分が教える生徒たちが平和、自由、尊厳のうちに生きることができるようになり、世界の変容に貢献する者になれると確信しています。
省 察
「過去と同様、現在においても、奴隷状態の根本には、人を物のように扱うことが許されるという人間の考えがあります。」(『兄弟の皆さん』24)奴隷は、今日の私たちの社会を支えている法律の中に銘記されている通り、そのあらゆる姿、形において、基本的な人間の権利に反します。世界人権宣言の第1条と第4条は「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利と において平等である」というこれらの価値観をはっきりと思い起こさせてくれます。神の目には、男であれ女であれ、一人ひとりの人間は自由であり、平等と兄弟姉妹の関係において、すべて人の善のために存在するよう計らわれているのです。人身売買、強制労働や売春、臓器売買といった現代の奴隷制、また、全ての人は平等であり、同じ自由と尊厳を持っているという根本的確信を尊重しないあらゆる関わりは、人間性に反する犯罪なのです。
私たちは、持続可能な開発目標8.7を心にとめ、奴隷制、強制労働、人身売買、そして全国的、世界的な功利的供給チェーンのための児童労働を終わらせるため、あらゆる適切な法律の施行と科学技術の活用を世界に呼びかけています。(現代の奴隷制に反対する修道会長上連合による共同声明)
私たちSSNDの呼びかけは、『いのちの尊厳を守り、被造界を大切にするために他者と協働し、教育に携わり、声をあげ、行動する(愛は全てを与える)ことです。私たちは、現代の奴隷制のぞっとするような現実に直面する中で、この呼びかけに応えるようチャレンジされています。
神は私たちに何を望んでおられるのでしょうか。『正義を行ない、慈しみを愛し へりくだって神と共に歩むこと、これである。』(ミカ6章8節)人間の尊厳は、自由、正義、平和の地平に拡がるのです。全てのいのちの尊厳を守り、希望を解き放ち、喜びを起こすために危険を冒しましょう。これが神からの呼びかけです。共通の行動を通して、私たちは、人間の自由と尊厳への実現可能な小道を拓くでしょう。私たちが、現代の奴隷制の全国的、世界的な現実にますます気づくようになるにつれ、私たちは正義を行ない、あわれみを愛し、神からの勇気と、具体的な行動をとるための変容を祈らなければなりません。
行 動
現代の奴隷制は全ての人に影響を与えます。私たちはそれをどのように止めることができるのでしょうか。
- 自分たち自身が学び、社会の気づきを深め、あらゆる形の現代の奴隷制の撲滅に向けて働きましょう。
- 加害者の行動を止め、癒し、正義へと導くために、様々なグループ、運動体、組織体や、他の宗教団体とも協働し、ネットワークをつくり、共に声をあげましょう。
- 私たちが消費しているものの供給チェーンを調べ、フェアトレード製品を選びましょう。
- 会社や組織体が責任ある行動をとるための規定を作る運動に参加しましょう。
結びの祈り
神よ、死の文化を広げている現代の奴隷制の加害者が回心しますように。全てのいのちの中にある希望を強め、尊厳を回復してください。私たちが、人を奴隷にする鎖を解くことに献身したいという、心の中で燃える正義と平和の光を守ってください。アーメン。
ポーランド管区出身で、南スーダンで使徒職をしているM.エルザビエタ・ブロクSSNDが
国際シャロームネットワークのために準備してくださいました
絵は第24回総会指針から取りました。デザインは修道会のコミュニケーション事務所。